2020年11月25日水曜日

円分体って名前がそもそもどうなんだ

有限巡回群の群環の自己同型群およびその部分群による不変部分環を考えてみたい。

まずは実例から。 適度な複雑さがあった方が良いので、7次巡回群 \(C_7\) を考えよう。 生成元を \(g\) として、乗法的に書くことにする。 自己同型群 \(\mathrm{Aut}(C_7)\) は \((\mathbb{Z}/7\mathbb{Z})^{\times}\) なのだが、\(\Gamma_7\) と書くことにしよう。 \(\Gamma_7\) は群環 \(\mathbb{Q}C_7\) にも自然に作用しているので、不変部分環 \(\mathbb{Q}C_7\,^{\Gamma_7}\) を考えることができる。 この中には生成元 \(g\) の \(\Gamma_7\)-軌道の和、すなわち \(g + g^2 + g^3 + g^4 + g^5 + g^6\) が入る。 そしてこの元(の多項式)以外の\(\Gamma_7\)-不変な元はないので、\(\mathbb{Q}C_7\,^{\Gamma_7} = \mathbb{Q}[g + g^2 + g^3 + g^4 + g^5 + g^6]\) だと言って良い。 以降 \(g + g^2 + g^3 + g^4 + g^5 + g^6\) を \(\Omega\) と表すことにする。

\(\Omega^2\) を計算してみよう \[g \Omega = \Omega + 1 - g\] \[g^2 \Omega = g(\Omega + 1 - g) = \Omega + 1 - g^2\] 等々なので \[\Omega^2 = 6\Omega + 6 - g - g^2 - \cdots - g^6 = 5\Omega + 6\] つまり \(\Omega\) は2次方程式 \(X^2 - 5X - 6 = 0\) を満たす。 ところがこの方程式の解は \(-1\) と \(6\) であり、どちらも整数、ということは有理数体に入ってしまう。 つまり、\(\mathbb{Q}[\Omega] = \mathbb{Q}\) であった。 \(\Omega\) の値としてどちらを選ぶかが重要であることはこれからの計算で解るだろう。

次は部分群について考えてみる。 \(\Gamma_7\) の部分群は \(2\) で生成される3次巡回群 \(\langle 2 \rangle = \{1, 2, 4\}\) と \(6\) で生成される2元群 \( \langle 6 \rangle = \{1, 6\}\) である。 まずは3次巡回群 \(\langle 2 \rangle\)-不変な元には 生成元 \(g\) の \(\langle 2 \rangle\)-軌道の和 \(\Omega_2 = g + g^2 + g^4\) がある。 そしてもう一つコセット \(3\langle 2 \rangle\)-軌道の和というか \(g^3\) の\(\langle 2 \rangle\)-軌道の和というか、 \(\Omega_2' = g^3 + g^5 + g^6\) がある。 もちろん、今の場合 \(\Omega\) も当然に不変なので \(\Omega_2' = \Omega - \Omega_2\) と理解しても良い。 したがって独立な元としては \(\Omega_2\) だけ取れば良く、 不変部分環 \(\mathbb{Q}C_7\,^{\langle 2 \rangle}\) は \(\mathbb[\Omega, \Omega_2]\) である。 今度も \(\mathbb{Q}\) に潰れるだろうか?

\(\Omega_2\) の冪から代数関係を探しても良いのだが、代わりに \((\Omega_2 - \Omega_2')^2\) を計算しよう。 \(\Omega_2 - \Omega_2'\) は \(\langle 2 \rangle\) では不変だが、\(3\langle 2 \rangle\) の元によって符号が反転するという良さげな性質がある。 \[(\Omega_2 - \Omega_2')^2 = \Omega + \Omega_2' - 2(\Omega + 3) + \Omega + \Omega_2 = \Omega - 6\] ここで \(\Omega = -1\) の方を採用すれば、\((\Omega_2 - \Omega_2')^2 = -7\) であり、 \(\Omega_2 - \Omega_2'\) は \(\mathbb{Q}\) の元ではなく、したがって \(\mathbb{Q}[\Omega, \Omega_2] \neq \mathbb{Q}\) である。 一方 \(\Omega = 6\) の方を採用すれば、\((\Omega_2 - \Omega_2')^2 = 0\) であり、 \(\Omega_2 = \Omega_2'\) さらに \(\Omega_2 + \Omega_2' = \Omega\) より \(\Omega_2 = 3\) となってまた \(\mathbb{Q}\) に潰れてしまった。

同じように \(\langle 6 \rangle\) についても、不変な元が \(\Omega_3^{(1)} = g + g^6\), \(\Omega_3^{(2)} = g^2 + g^5\), \(\Omega_3^{(3)} = g^3 + g^4\) とあるが、これらは代数的に独立ではなく、実際 \[(g + g^6)^2 = g^2 + g^5 + 2\] \[(g + g^6)^3 = g^3 + g^4 + 3(g + g^6)\] といった関係式が成り立つ。 これを整理すると、\(\Omega_3^{(1)}\) は \(X^3 + X^2 - 2X - \Omega - 2 = 0\) の解になる。 同様にして \(\Omega_3^{(2)}\), \(\Omega_3^{(3)}\) も同じ3次方程式の解であることが判る。 そこでこれらが共役な解であるとして、解と係数の関係を使うと、 \(X^3 - \Omega X^2 + 2 \Omega X - \Omega - 2 = 0\) という方程式を得る。 \(\Omega = -1\) の方を採用すれば先ほどの3次方程式とも1次、2次の係数を含め一致する。 このとき左辺の3次多項式は既約である。 不変部分環としてはどれを生成元としても良く \(\mathbb{Q}C_7\,^{\langle 6 \rangle}\) は \(\mathbb[\Omega, \Omega_3^{(1)}]\) である。 一方、\(\Omega = 6\) とすると解と係数の関係から得た方程式の左辺の3次多項式は可約で、\(2\) を3重解に持つ。 つまり \(\Omega_3^{(1)}\), \(\Omega_3^{(2)}\), \(\Omega_3^{(3)}\) は全て \(2\) になり、不変部分環が再び \(\mathbb{Q}\) に潰れる。

上の実例を一般化すると、有限巡回群の群環の自己同型群およびその部分群による不変部分環を考えることで、 円分体の部分体(とほぼ同じもの)を与えることができることが判る。

背景

円分体を「円分体」と呼ぶのは複素数体を前提にしているが複素数を持ち出さなくてもいろいろ語れるだろう、というのが一つ目の狙いである。 そのため、普通なら \(\zeta_n = e^{2\pi / n}\) といった複素数が登場する部分を抽象的な巡回群の生成元 \(g\) で扱った。 ただし、群環 \(\mathbb{Q}C_n\) 自体は円分体そのものではない。

ガロワ理論を前提にしないで部分体との対応を語りたい、というのがもう一つの狙いである。 これは栗原「ガウスの数論世界をゆく」において、そもそもガウスの円分体論がガロワ理論の元だった、というような歴史を知ったからだった。 まあ、巡回群の自己同型群などというものを持ち出しているので狙い通りと言えるか微妙なところではあるが。 そういえば不変部分環が体になるなどと一言も言っていなかった。

そして、もう一つ逆にガウス周期とかガウス和とか、そういう用語も使わずに、不変な元で押し通したのはどうだっただろう。 \(g\) を \(\zeta_n\) に写す形で複素数体に埋め込んでからでないと「ガウス和」とは呼べないかな、というのはある。 ルジャンドル記号? 何それおいしいの?