2013年7月13日土曜日

abc予想と円分多項式の素冪値

前回 (abc予想と昔考えたこと)は、素数次円分多項式はその素数が7以上ならばabc予想の仮定の下で平方以上の素冪の値を高々有限回しか取らないということを示した。 素数次以外も同様のことが証明できる、というのはまあ読者の練習問題でもいいのだが、せっかくなので書いてみることにする。

\(m\) を合成数とし、\(\varphi(m)\) が \(6\) 以上(つまり \(m = 4,6,8,10,12\) 以外)と仮定しよう。 \(m\)次円分多項式 \(\Phi_m(X)\) が、\(x\) で素冪の値 \(p^n\) を取ると仮定する。ここでもちろん \(n \ge 2\) である。 円分多項式はよく知られているように \(X^m - 1 = \prod_{d | m}\Phi_d(X)\) を満たすので、 \[x^m - 1 = p^n \prod \Phi_d(x)\] と書ける。ただし、右辺の積は \(d=m\) 以外の \(m\) の約数に亘る。 \(x\) と右辺の各因子は互いに素なのでabc予想が使える。

abc予想:
任意の \(\epsilon > 0\) に対して, ある正の定数 \(K(\epsilon)\ge 1\) が存在して, 次を満たす:
\(a\), \(b\), \(c\) が互いに素な整数で \(a + b = c\) を満たすならば, 不等式 \[\max \{|a|, |b|, |c|\} < K(\epsilon) \{\text{rad}(abc)\}^{1+\epsilon}\] が成立する.

少し余談を挟むと、前回もそうだったのだが、左辺は \(\max\) を取るのが大事なのではなく、「\(|a| <\) 右辺」かつ「\(|c| <\) 右辺」と二つの式を両立できる、と考えるのが使い方のコツである。

ではまず \(|a|\) から使おう。 \[x^m < K(\epsilon) \left(p\cdot x\cdot \prod \Phi_d(x)\right)^{1+\epsilon}\] ここで円分多項式の積の部分は \(m - \varphi(m)\) 次の多項式なので、適当な定数 \(C\) を取れば \(Cx^{m-\varphi(m)}\) で上から抑えられる。 \[x^m < K(\epsilon) (p\cdot Cx^{1 + m-\varphi(m)})^{1+\epsilon}\] さらに \(x\) について左辺にまとめてしまおう。 \[x^{m-(m-\varphi(m)+1)(1+\epsilon)} < K(\epsilon)C^{1+\epsilon}p^{1+\epsilon}.\]

次は \(|c|\) を使う。 \[p^n\prod \Phi_d(x) < K(\epsilon) \left(p\cdot x\cdot \prod \Phi_d(x)\right)^{1+\epsilon}\] そして今度は \(p\) を左辺に、\(x\) を右辺にまとめる。 \[p^{n-1-\epsilon} < K(\epsilon) x^{1+\epsilon} \left(\prod \Phi_d(x)\right)^{\epsilon}\] 先程と同様円分多項式の積の部分は上からの評価に代えて \[p^{n-1-\epsilon} < K(\epsilon) C^{\epsilon} x^{\epsilon m - \epsilon \varphi(m) + 1 + \epsilon}\] を得る。

式変形を簡単にするために \(\epsilon = \frac{1}{m}\) とおく。 \(x\) の評価式の冪は次のようになる。 \[m-(m-\varphi(m)+1)(1+\frac{1}{m}) = \varphi(m) -2 + \frac{\varphi(m) - 1}{m}\] 一方 \(p\) の評価式の右辺の \(x\) の冪は \[\epsilon m - \epsilon \varphi(m) + 1 + \epsilon = 2 - \frac{\varphi(m) - 1}{m}\] となる。 ここで両者に共通する \( 2 - \frac{\varphi(m) - 1}{m}\) を \(1\) と \(2\) の間という気持ちを込めて \(1 + \delta\) と書くことにする。

それでは二つの式をまとめていこう。 \[x^{\varphi(m) - (1 + \delta)} < K(\frac{1}{m})C^{1+\frac{1}{m}}p^{1+\frac{1}{m}}\] ここで \(p\) の評価を第2式で置き換えたいのだが、冪 \(n\) がちょうど \(2\) のとき、そのままでは \(n - 1 - \frac{1}{m} < 1 + \frac{1}{m}\) なので、\(2\)乗する(仮定した条件から\(2\)乗すれば良いことは容易に判る)。 \[ < K(\frac{1}{m})C^{1+\frac{1}{m}}p^{2(n - 1 - \frac{1}{m})}\] \[< K(\frac{1}{m})C^{1+\frac{1}{m}} K(\frac{1}{m})^2 C^{\frac{2}{m}} x^{2(1+\delta)}\] ここで \(x\) を左辺に移項すると、 \[x^{\varphi(m)-3(1+\delta)} < K(\frac{1}{m})^3 C^{1+\frac{3}{m}}\] という評価を得る。 ここで最初に仮定したように \(\varphi(m) \ge 6\) なので左辺の \(x\) の冪は正であり、右辺は定数であるから、可能な \(x\) の整数値は有限個である。

まとめると次のことが証明できた。 \(m\) を \(\varphi(m)\ge 6\) を満たす合成数とすると、abc予想が成り立つならば、円分多項式 \(\Phi_m(X)\) が平方以上の素冪の値をとるのはどの \(m\) についても高々有限回に限る。