概要: 多項式の次数はただの自然数ではないという話。 自然数は和による可換モノイドであるだけでなく、全順序の構造も持つ。 一般に、半順序の構造を持つ半群を順序半群という。 そこでは不等式(順序関係)の両辺で同じ元との半群演算を行っても順序構造が変わらない、という条件を置く。 自然数はその意味で順序半群の一種である。 多項式の次数は、自然数みたいなものである。 次数 \(n\) の多項式と次数 \(m\) の多項式を掛けるとき、次数は \(n+m\) と足し算になる。 面倒なのが \(0\) の扱いで、雑に扱うときは多項式 \(0\) の「次数は考えない」などと言ってごまかす。 ごまかさないとすれば、\(0\) は多項式の積における零元なので、次数にも零元が必要になる。 しかし、自然数には零元が存在しない(和を考えているので \(0\) は単位元であって零元ではない)。 半群に零元を添加するのはいつでも可能である。 自然数にも零元を添加しよう。 仮に \(\lozenge\) で表すことにする。 満たすべき演算規則は次の通り。 \[n + \lozenge = \lozenge + n = \lozenge\] この \(\lozenge\) を導入した自然数を \(N_\lozenge\) と表すことにする。 いま、考えていた自然数の構造は順序半群(実際は全順序モノイド)だったので、半群としての零元の導入が順序についても矛盾なく行われなければ、あまり意味がない。 自然数の順序構造は全順序だったので、\(\lozenge\) の入る余地は3通り考えられる。 最小元、最大元、中間の元である。 が、中間の元にはできないことを先に確認しよう。 \(\lozenge\) が \(a\) と \(a+1\) の中間に埋まると仮定しよう。 すなわち、 \[a \lneq \lozenge,\qquad \lozenge \lneq a+1\] ところが、左の式の両辺に \(1\) を足すと \[a + 1 \lneq \lozenge\] となり、右の式と矛盾する。 したがって、\(\lozenge\) は自然数の間に入ることはない。 次に、最小元の場合を考...