ここ数ヶ月でトリウム熔融塩炉に関する本をまとめて読んだので、読書案内という形でまとめてみる。 ざっと、本当に簡単に、背景知識というか概略を説明しておく。 現在普通に見られる原子炉で使われている燃料はウラン235である。 ウラン235は天然のウラン中に約0.7%存在する同位体である。 残りほとんどはウラン238である。 燃料としてのウランはウラン235の比率を高めてある(場合が多い)。 燃料ではない方のウランすなわちウラン238に中性子が吸収された場合、核分裂せずに2度のβ崩壊によってプルトニウム239になる。 プルトニウム239は核分裂する。 ということで、使用済み核燃料の中にはまだ核分裂する物質が残っているので、集めて使おうという発想が出てくる。 とくに、新たに作られるプルトニウムを効率よく作りだそうというのが廃炉になるもんじゅなどで進められていた増殖炉という構想である。 一方のトリウムはウランより2つ原子番号が小さい元素で天然のトリウムの同位体構成はほぼ100%トリウム232である。 トリウム232はウラン238に似てそれ自体が核分裂するわけではなく中性子を吸収すると2度のβ崩壊によってウラン233になり、これが核分裂する。 そういうわけで、トリウム232をウラン233に転換しながらウラン233を核分裂させる状態を維持すれば、原子炉として運転できるわけである。 この反応ではプルトニウムはほとんど生み出されないし、ウラン233(と不純物として紛れ込むウラン232)は放射能が強く核兵器に転用しづらいという政治的安全性がある。 もう一つのキーワード「熔融塩炉」は、現在の原子炉が金属の容器に閉じ込めたウランを水で冷却する方式であるのに対し、 溶融塩という言うなれば溶岩のような高温の液体の中にトリウムを混ぜ込んで反応を進める方式である。 利点として、燃料交換が不要になること安全性が格段に向上することなどが見込まれている。 冷戦時代のアメリカで実験炉が運転されていたことはあるが、その後すっかり忘れ去られていた技術である。 福島での事故が起きてから世界的に原発への風当たりは強いが、 「原子力が全ていけないわけではない。悪いのはウラン軽水炉という現行の原子炉の基本設計である」 という意見の代表として注目されているのがトリウム熔融塩炉なのである。 前置きが長くなった...