トロピカル幾何学で扱われる"トロピカル多項式"の話をしたい。
引用符を付けたのは、特別な多項式があるわけではなくただの実数係数多項式だ、と言いたいからだ。
もちろん、代入操作がトロピカル代数を使った評価になる。
以前(多項式環はモノイド環)、次のように書いた。
多項式環をモノイド環として見ると、「代入」によって冪乗や係数との積が取られることは全く自明ではなくなるが、説明付けることは可能だ。
いま可換環\(R\)と\(R\)代数\(S\)がある状況を考えよう。
\(R[\mathbb{N}^n]\)の元\(f\)に\(s\in S^n\)を代入するとは、
\(\mathbb{N}^n\) から \(s\) で \(S\) の積により生成されるモノイド \(\langle s \rangle\) への準同型で \(R[\mathbb{N}^n]\) を \(R[\langle s \rangle]\) に写した上で、
\(\langle s \rangle\) の元を \(S\) の元と考え、係数を \(R\) の作用と考え、形式和を \(S\) の和に読み替えて、全てを \(S\) の中で評価した結果を得ることを言う、ということになるだろう。
トロピカル代数にこれを当てはめてみたい。
と、その前にトロピカル代数を定義しておこう(一般論はよく知らないので、よく出てくる min-plus 代数というやつだけ考える)。
\(\mathbb{R}\) を実数体とし、\(\overline{\mathbb{R}}=\mathbb{R}\cup\{\infty\}\) とする。
\(\overline{\mathbb{R}}\)に次のように演算を定義する。
積\(\otimes\)を\(\mathbb{R}\)の和(もちろん\(\infty\)に何を足しても\(\infty\))とし、
和\(\oplus\)を\(\min\)とする。
積の単位元は\(0\)、和の単位元は\(\infty\)となる。
和が逆元を持たないので通常の意味で環ではないが、この点だけを除けば大体環みたいなので半環と呼ばれる。
\(\mathbb{R}\)の\(\overline{\mathbb{R}}\)への作用は普通に\(\overline{\mathbb{R}}\)の積として入れることができる。
ということで、「可換環\(R\)と\(R\)代数\(S\)」の代わりに「可換環\(\mathbb{R}\)と\(\mathbb{R}\)の作用を持つ半環\(\overline{\mathbb{R}}\)」が用意できた。
後は\(\mathbb{R}\)係数の多項式(\(R[\mathbb{N}^n]\)の元)に\(\overline{\mathbb{R}}^n\)の元を代入する手続きで、これは引用した説明と同じだ。
くどいかも知れないが念のためなぞっておくと、\(f\in\mathbb{R}[\mathbb{N}^n]\)に\(s\in\overline{\mathbb{R}}^n\)を代入した\(f(s)\)は、次のように計算される。
\(\mathbb{N}^n\) から \(s\) で \(\overline{\mathbb{R}}\) の積により生成されるモノイド \(\langle s \rangle\) への準同型で \(\mathbb{R}[\mathbb{N}^n]\) を \(\mathbb{R}[\langle s \rangle]\) に写した上で、
\(\langle s \rangle\) の元を \(\overline{\mathbb{R}}\) の元と考え、係数を \(\mathbb{R}\) の作用(\(\overline{\mathbb{R}}\)の積すなわち\(\mathbb{R}\)の和)と考え、形式和を \(\mathbb{R}\) の和(すなわち\(\mathbb{R}\)の\(\min\))に読み替えて、全てを \(\overline{\mathbb{R}}\) の中で評価した結果を得る。
背景: 最近、トロピカル代数の話って付値の話に似てると思って何本か YouTube でトロピカル幾何学の動画を見ていたらやっぱり付値の説明なんかが出てきたのですっきりした、という流れでそこで扱われている多項式についてちょっと考えたことを書き留めてみた。
追記: うーん、違うな。これだと多項式関数として役に立っていない。